BAROQUE「SIN DIVISION」REVIEW

• 大前多恵／ライター

  大前多恵／ライター

  前作で心の救済、博愛の境地に達したと思い込んでいた私は初め、次作で地獄、堕天使ルシファーを描こうとしていると聞き耳を疑った。順番が逆ではないか？　戻って来られるのか？と精神面を勝手に心配したのだ。しかし、『PLANETARY SECRET』『PUER ET PUELLA』、そして今作『SIN DIVISION』の順に、２人体制のBAROQUEとして３部作を世に送り出すヴィジョンは予め決まっていたのだという。
  
  かくして、アルバムは瞬く間に完成、なんと半年後に聴くことができた。一巡して嘆息。射抜かれるような衝撃と痺れるような陶酔を覚えた。怒り、憎悪、狂気、欲望への耽溺、苦しみ、悲しみといった負の感情と向き合い、人間が皮の下に宿す本性をありありと暴き出した、ダークロックの傑作だったからだ。遠い異国の砂漠に吹く風を感じるような、あの世を蜃気楼として見るような、摩訶不思議なトリップ感もある。マイナーキー揃いではあるが、ダークさを表現するにあたって彼らは、ただ激しくとか暗くとかいった安易な手法を取ることを良しとしなかった。闇に目を凝らすと見えてくる陰影や手触り、炎のように熱かったり氷のように冷たかったり、温度や湿度までも感じさせる、多様な音楽性とサウンド、言葉。それらを適切にチョイスして構築し、２人は12曲を織り上げている。
  
  限定盤封入のインタヴューでも語られているが、幼い頃の圭の体験がルシファー像には投影されている。無意識のままフィクションとして作品をつくり始め、ルシファーのヴィジョンの降臨と共にそれを自覚したというプロセスに、胸を締め付けられる想いがするのと同時に、今作がこのタイミングで産まれてきた必然性も感じた。「AN ETERNITY」で開き始めていた地獄の扉の、その先へと歩みを進めて目を凝らす勇気、そこで見たものを忠実に音楽で表すスキル。圭と怜とで密にコミュニケーションを図り楽曲を練り上げていくことができる、今のBAROQUEだからこそ創り出せたアルバムだったのだ。
  
  戻って来られるのか？という心配は杞憂に終わった。BAROQUEはこの暗闇の世界と光の世界を自由に行ったり来たりして羽ばたける両翼を得たのだ、と今なら分かる。『SIN DIVISION』の12曲がライヴでどう化けるのか？　音が鳴った瞬間、何が見えるのか？　個人的には「SUCCUBUS」から「SABBAT」への妖しく変態度の高い背徳シークエンスが待ちきれないほど楽しみ。やすやすとは人に話せない秘密、隠しておきたい欲望こそ、芸術の世界では制約なく表していただきたい、それこそを聴きたい、観たいと常々願っています。傑作に出逢うという至福の体験をありがとうございました！
  

• 増田勇一／ライター

  増田勇一／ライター

  客観性を持たない誰かの主観は、おそらく誰にも理解されることがない。
  光に慣れ過ぎた目には、闇の中で進むべき道を見付けることができない。
  現実の世界を知らずにいては、空想上の世界も描ききれはしない。
  束縛はときに解放と同義になり、トラウマが苦悩を解く鍵になることもある。
  BAROQUEのふたりが辿り着いた『SIN DIVISION』というひとつの結論は、
  誰もが開けようとしなかったパンドラの箱に詰め込まれていたものの正体を教えてくれる。
  まさしく禁断の領域。しかし、王道と邪道が入れ替わることがあるのと同様に、
  これは彼らにとっての普遍性の体現でもあるはずだ。
  これが抜け出せない闇になるか、希望の光に満ちた世界になるかはあなた次第。
  しかし、実はその両者が表裏一体であることに気付かされるのに時間はかからないはずだ。
  2020年最初の、罪深きマスターピースの生誕に、心からの拍手を。
  

• 東條祥恵／ライター

  東條祥恵／ライター

  ２人になってからのBAROQUEがリリースしてきたアルバム３部作。その締めくくりとなる本作『SIN DIVISION』は、アルバムのなかでもっともダークな仕上がり。ダークな扉を開けるその怖さでいえば、２人が在籍していたkannivalism時代に発表した２nd AL『helios』の中盤に位置していた３部作（「another world」〜「again and again」〜「a growth ring scroll」）の、この先になにがあるか分からないままどんどん扉を開け、悪夢に飲み込まれていくような感覚のほうが断然怖かった。今作はほぼ全編にわたって転調につぐ転調で、徹底してマイナーコードが響き渡り、不協和音気味で退廃的、終末的な音像が散りばめられているにもかかわらず、とことんスタイリッシュな音像で暗黒世界を描いている点が、あの時代とは圧倒的に違う。だから、地獄の扉を開けても、今作は全編に渡ってサウンドの視界は澄み渡るようにクリアだ。このダークな透明感は、聴く世代によっては80年代にコクトー・ツインズ、デッド・カン・ダンス、ディス・モータル・コイルなどを世に送り出し、徹底した統一感あるアートワークと世界観、音像でUKサウンドのなかで孤高の地位を築いた4ADレーベルの耽美的で神々しいサウンドに通じるものを感じるはず。
  黒い『PLANETARY SECRET』、白い『PUER ET PUELLA』、モノトーンを透明感を持って描くのはこれまでも彼らは得意としていたが、そこに赤い『SIN DIVISION』が加わり、いまのBAROQUEは赤い悪魔的な暗黒世界をも透明感をもって描けるようになったといえる。例えば、白く乱反射する海面を見上げた「exit」（baroqueのAL『sug life』収録曲）の海が赤く染まり、官能的に揺れながら赤い海底へと舞い落ちる感覚の「GLOOMY LILITH」。同じ宇宙を柔らかいモノトーンで描いた「PURIFY」（『PLANETARY SECRET』収録）と、孤絶の赤で描いた「FROZEN ABYSS」などの対比はそれがもっとも表れた部分といえる。今作で唯一の光となる「COCYTUS」での“I LOVE YOU”の囁き、その愛が崩壊することで人間は誰しも悪魔になりうる事をうかがわせる「I LUCIFER」。そうして不協和が続く鳴り響くなか、悪魔の呪文をとなえるような「INFERNO」で滅びながら終わっていく今作。映画やゲームのRPGでいえば暗黒ゴシックで、悲惨なバッドエンドにも関わらず、聴き終わっても重々しい嫌な気持ちにさせない。赤黒い暗黒さえも、じつは“歌もの”として聴かせているところにも、BAROQUEのまだまだ計り知れないセンスを感じた一作。
  

• 志村つくね／ライター

  志村つくね／ライター

  赤黒く、深く、美しい。全編に漂う気品とエロス、そして悪魔と踊る快楽。BAROQUEの表現の壮大なスケールには常に驚かされる。本作『SIN DIVISION』が『PLANETARY SECRET』や『PUER ET PUELLA』の楽曲群と共鳴した時、どんな新たな色彩を生み出すのだろうか。今後のライヴでの魅せ方にも期待が膨らむ、意欲的なアルバムだ。天界から地上を経て、地の底へ。こういう甘美な地獄なら、悦んで堕ちたい。
  

• 山口哲生／ライター

  山口哲生／ライター

  　溢れ出る音楽的探究心を炸裂させ続けたBAROQUEの三部作。その最終章となる『SIN DIVISION』は、彼らの歴史の中でも、（前作からたった半年というスパンも含めて）とりわけ意欲作と言っても過言ではないだろう。全編通して鬱々とした空気が立ち込めていて、闇に蝕まれ堕ちていくような感覚──そう聞くと、どこか触れづらいような印象を受けてしまいそうなものだが、実験的、挑戦的ではありながら、歌も、ギターも、シーケンサーも、耳に残る旋律を大切にしていて、リスナーが楽曲の世界へスムーズに入っていくことができるようにしているところは、なんとも彼ららしい。
  　圧倒的な包容力に満ちていた『PLANETARY SECRET』、瑞々しさや煌めきを迸らせた『PUER ET PUELLA』、そして、心の奥底で蠢くものを炙り出す『SIN DIVISION』。どれもがまったく異なった表情を持ちながらも、今を生きるすべての人に寄り添い、力を与えてくれる三部作だ。
  

• 水谷エリ／ライター

  水谷エリ／ライター

  2020年の幕が開けたばかりでこんな話をするのはだいぶ気が早いが、敢えて、言わせてもらおう。BAROQUE最新作『SIN DIVISION』は、間違いなく“2020年の名盤”だ。緻密な構成、圧倒的な世界観、BAROQUEの存在意義というのが、この1枚を通して伝わってくる。だがしかし、彼らにとっては、これが集大成というわけではないだろう。『SIN DIVISION』を創ったことによって、次の扉が開いたはずだ。それだけに、“BAROQUEの新時代”はここから始まる、と私は思っている。
  

• 後藤寛子／ライター

  後藤寛子／ライター

  1曲目の不穏なインスト「RITUAL」で、まったく新しいBAROQUEが始まる予感に震えた。「少年少女」をテーマに蒼く純粋な想いを描いた前作『PUER ET PUELLA』から一転、まるで地獄を旅するダンテの「神曲」のように、重厚で壮大な世界観が繰り広げられる『SIN DIVISION』。
  ふたり体制でリリースした前２作で、エレクトロニカ、シューゲイズ、ラウドロックなどを掛け合わせたBAROQUE独自のロックが完成した――という信頼は良い意味で裏切られ、アレンジの幅広さと実験性、ピュアさとダークさを兼ね備えた怜の表現力、どこまでも美しく自由に暴れ回る圭のギターなどなど、さらに覚醒したBAROQUEに驚かされる。3枚目が目指す到達点だったとのことだけれど、むしろここからますますふたりの世界は広がっていくと確信できる１枚だ。
  

• 樋口靖幸／音楽と人

  樋口靖幸／音楽と人

  音楽に対してどこまでも潔癖でいようとするのは間違いじゃない。己の信念を曲げず、ひたすら純粋さを追い求める姿は美しくもある。けど、本当は目を背けているだけだった。漆黒の闇に肉体を支配される恐怖から逃れようと、自分を偽っているだけだった――。そんな彼らが今、ようやく見つけた真理がここにある。原罪を背負うこと、善悪美醜を超えた存在であろうとすること。それが「SIN DIVISION」で描かれたBAROQUEのユートピアなのだ。
  

• 辻 敦志／LMusic

  辻 敦志／LMusic

  目を覆いたくなるような現実をも描いた『SIN DIVISION』の世界は、2人のBAROQUEにとって必然であったかのように、
  前作から更に広がりを見せた珠玉の楽曲で表現されている。
  “3部作”と公言してきた彼らの最終章となるこのアルバムを聴くことで、1つの完結と捉えるか、新たな始まりと捉えるか？
  赤く染まった『SIN DIVISION』の世界で、その境界線からどこに向かうかはあなた次第。
  これはBAROQUEから突きつけられた、現実世界での選択となるだろう。
  

• 坂東健太／YOUNG GUITAR

  坂東健太／YOUNG GUITAR

  あれ？　こんなにダークなバンドだったか？というのが第一印象。でもこの重苦しさは好きだ。
  ギターを弾きまくる「END VISION」「REDME」「SABBAT」がとてもいい。圭さんにはもっともっと弾いてもらいたい。
  

• 藤中健司／WeROCK編集部

  藤中健司／WeROCK編集部

  『PLANETARY SECRET』、『PUER ET PUELLA』に続く、3部作の最後にあたるという『SIN DIVISION』。
  もちろん、『SIN DIVISION』単体の作品としても楽しめるものになっていると感じられた。それも短編集を読み終えた感覚を伴って……。
  ヴァラエティに富んだアルバムという表現を目にすることがあるが、それとはまた違った多彩さが『SIN DIVISION』に感じられたのだ。
  けして散漫な作品かという意味ではない。
  動きのあるベースを軸としたリズム、雄弁なギター、広範なジャンルを吸収したうえでなりたっているアレンジ、そして怜の声。BAROQUEとしての主張を貫きつつ、多彩な表現が行なわれている。
  聴き終えた今、やはり短編集を読み終えた感覚がある。それもとても読み応えを伴った感覚だ。
  

• 武村貴世子／ラジオDJ

  武村貴世子／ラジオDJ

  毒も刺も捨てたわけじゃなかった。
  その胸に、宿したままでいた。
  
  苦しみ、怒り、憎しみ、悲しみ、裏切り。
  この二人は、私たちが想像する以上の修羅の時を生きたことだろう。
  
  しかし、彼らには音楽があった。
  どのような襲来に苛まれようとも、
  音楽と真摯に向き合った彼らが、その内にある地獄の炎を解き放った。
  
  この宇宙に存在し、現実との歩みを経て、
  美しさの果てを描いた彼らは、己の中のうごめく感情にも眼差しを向けた。
  
  それは、光を追い求めるだけの者には到達しえない境地。
  
  目に見えるもの、見えないもの。
  生きていく中で人の中に生まれるありとあらゆる感情や現実から、
  目を背けずに完成させたこの作品から私が得た感情は、歓びだった。
  

• ジョー横溝／ライター・ラジオDJ

  ジョー横溝／ライター・ラジオDJ

  ヘビーなサウンドなのにキャッチーな楽曲。
  コンセプチュアルなアルバムなのに捨て曲がない。
  深淵なテーマなのに、歌がちゃんと頭にも心にも入ってくる。
  要するにBAROQUEしかなしえないアルバムの完成だ。
  あとは早くライブが観たい！
  

• 鈴木友子／TOWER RECORDS新宿店

  鈴木友子／TOWER RECORDS新宿店

  まず驚いたのは前作ALBUMから異例の早さで今作が届いたこと！
  数々のアーティストの作品を送り出してきて私ですがこの早さは例がありません。笑
  第一印象としては敢えて闇の部分にフォーカスし、そこをテーマとした作品なので、サウンドだったり声色がテーマにすごくマッチしているなぁという印象。
  逆に言えば、こういうBAROQUEは今後なかなか聴けないかも？とも思えた1枚。
  
  そしてお二人のイベント中のトークシーンを聞かせていただき強く感じたのは、今とてもバンドの状態がいいことと、ファンの方の応援の恩恵を自身のパワーに変えることが出来たからこそ完成した作品だということ。
  こうなるとツアーもなおのこと楽しみになりますね。
  過去の2作も今作と深い関わりがあるので、3作通しで聴くstyleをおすすめ！
  各々で楽しんでみてください。